原賠法改正法案は,2017年通常国会で成立するか?

原賠法改正法案は,2017年通常国会で成立するか?を法案準備スケジュールという観点から考えてみます。私の結論は,成立するのは相当大変だというものです。
・原子力損害賠償制度専門部会は,2015年5月に設置され,原賠制度改正を準備するために審議を継続しています。2017年1月7日までに,すでに,1年半以上経過し,15回開催されていますが,まだ答申が出ていません。そして,次回の開催案内も掲載されていません。とすると,1月半ば以降に開催されるのでしょう。
・現在までの審議状況では,答申の「原案」ができていません。通常は,議論がまとまる回,そして,答申原案の修文をする回が必要だと思います。というわけで,少なくともあと2回,普通に考えて3回が必要です。
となると,どう考えても答申を出すのが2017年2月半ば過ぎになります。それから法案作成,各省協議,法制局審査,自民党審査と進んで,閣議決定に行くのは簡単ではありません。閣議決定は,早くて3月末でしょう。それで,原賠法案が通常国会中に成立するのでしょうか?
・もし仮に,答申が,事業者無限責任,有限責任の両論併記であるとすると,これは相当に困難だと思います。というのも、法案と投信との関係を説明するのが簡単ではないからです。そこで,現在は,一本化された答申を出すべく努力していると考えられます。
・一本化するとして,事業者有限責任になるのでしょうか?これは,事業者は好ましい結論として喜ぶでしょうが,それでは,現行制度をひっくり返すことになります。政治的,社会的に相当に議論になりそうです。事故を起こした事業者を優遇するのはおかしいという批判が出るかもしれません。
・事業者無限責任だとどうでしょう?現行制度とそれほど大きな変化がないことになります。この場合には,ぎりぎりで通常国会成立があるかもしれませんが,それでも厳しいのではと思います。



原子力損害賠償制度の審議会と両論併記

 原賠法見直しにつき,東京新聞朝刊3面8月28日は,事業者責任上限設定の是非について,浜田純一部専門部会長の「両論併記の可能性もある」発言を引用しています。記事には「最終的に政治判断となる可能性も出てきた。」とあります。政治は政治として,研究者も議論を詰めていくことが必要です。
 8月23日付論点整理案をみると,答申が賠償制度については両論併記になると思います。もちろん,法案は,両論併記ではありません。今回の原子力損害賠償法改正法案は,事業者有限責任になりそうです。具体的には,原子力事業者の責任を限定した上で一定以上の損害については,国がすべて賠償するものになりそうです。専門部会は,今後,2回か3回会合があって,それで答申でしょう。
 原賠法は,政治と密接に結びついた法律です。答申が無限責任維持論を単純に打ち出すことは難しかったというのが小柳の感想です。最終的に政治判断に委ねるという形で,審議会は終わりそうです。 
 
 ここでは,両論併記答申の意義について考えてみます。行政学研究者の森田朗教授(この専門部会委員でもあります)の『会議の政治学』(滋学社,2006年)が手がかりになります。
 両論併記型の答申について,森田教授は,次のように述べています。「政治的決定の場から距離を置いたところで,中立的,客観的な観点から意見や利害の調整を行うことが審議会の使命だとすると,これは,使命を達成できなかったこと,使命を放棄したことを意味する」(48頁)。
 森田教授は,政府系の審議会においては,決定を全会一致で行なうことが望ましいとされていることを指摘しています。森田教授は,決定について多数決も不適切と述べます。「決定を多数決で行うことは,少数派の顔をつぶすことであり,それは同時に座長自らの顔がつぶれることである」(51頁)。その理由は,審議会の任務は,各界の意見を集約して満場一致型の結論を導き出し,立法や政策のベースを作り出すことにあるからです。
 また,森田教授は,審議会少数派の戦術として,妥協と徹底抗戦があるとしつつ,後者(徹底抗戦)は容易でないと述べています。
 「組織を代表して参加しており,組織から委任を受けている手前,自己の判断で譲歩できない立場にある委員の場合には,そうした一種の『玉砕』戦術が選択される場合がある。
 その場合の方法としては,後述するように,答申そのものに両論併記という形で主張を取り入れさせることができればベストである。だが,それが可能かどうかは,多数派と少数派の比率や力関係による。実際には少数意見を付記させることができればかなりの成果であろう。議事録にのみ留め,答申文では全く無視されることもめずらしくはない。」(44頁)。
 以上のようにみると,強力な業界団体系による徹底抗戦がなされている現状では,専門部会での全員一致による答申は難しいことがわかります。業界団体は,もちろん政党を通じたロビーイングの力があります。原賠法のかなめのひとつである16条が自民党政務調査会・総務会の議論のなかで文言が変わって行ったことを拙著は明らかにしています。

 もっとも,考えてみると,原子力損害賠償制度の専門部会は,原賠法制定時の専門部会(我妻榮部会長)の昭和34年12月12日答申にも大蔵省による少数意見があり,また,昭和46年改正の時の専門部会昭和45年11月30日答申でも業界団体系の少数意見がありました(拙著『原子力損害賠償制度の成立と展開』参照)。この問題に関する限り,議論・状況は変わらないとすら言えます。
 
 なお,今回の専門部会委員である森田教授の本は大変興味深いものですから,ブログ読者の皆様にも一読をおすすめします。森田教授は,本年6月に中医協についてもご本をお書きになっていらっしゃいます(会議の政治学Ⅲ)。
 http://www.jigaku.jp/mokuroku91.htm
 原子力損害賠償制度検討専門部会についても本をお書きくださればと存じます。

  
 
 
  
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原子力損害賠償制度専門部会の論点整理(2016年8月23日)について

 07191.jpg原子力損害賠償制度の検討について,8月には重要イベントがありました。一つは,事業者の有限責任制度(かつ被害者の賠償請求権制限)を設けるフランス法について,事業者無限責任への転換を求めるフランスの民法学者の論文翻訳です。法律時報9月号に掲載されています(ヨーロッパにおける原子力損害賠償責任──統一か混乱か……ジョナス・クネッチュ(訳:馬場圭太))。
 https://www.nippyo.co.jp/shop/magazines/latest/1.html
 優れた内容の論文であり,簡単に,「国際的スタンダードはこうだ」などとは言えないことがわかります。

 もう一つは,原子力損害賠償制度検討専門部会での「論点整理」です。同専門部会は,8月23日に会合があり,そこで事務方から,「原子力損害賠償制度の見直しの方向性・論点の整理(案)」が提出され,これで答申の大要は固まったようです。というのも,通常,この種の審議会で,このような中間整理案が出た場合は,それが最終答申に活かされるのが普通だからです。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo12/siryo12-1.pdf
 
 論点の整理案の核心は,次のとおりです。①被害者の賠償請求権については,制限をしない。②原子力事業者の賠償義務については,有限責任論(5兆円限度)と無限責任論(現行法どおり)の2つの案があるとし,両案併記で行く。③両案併記のうち,有限責任案をどちらかと言えば本案としている。
ここから今後の見通しに就いて述べれば,④あと2,3回会議を開いて,本年10月頃に答申を出し,その後,有限責任案での法案作成に進み,2017年の通常国会に改正法案提出になります。
 このブログでは,特に③に注目したいと思います。この点について,日経新聞8月24日付記事などは,「事故を起こした電力会社に金額の制限なく賠償を負わせる『無限責任制』をやめるかどうかは結論が出なかった。」(日本経済新聞2016年8月24日付朝刊・第5面)として,③について曖昧な記述をしていますから,私ののブログはやや踏み込んだ意見を述べています。
 
まず,①について,整理案は次のように述べています。
 「(1)被害者保護の在り方について
今後発生し得る原子力事故に適切に備えるためには、被害者保護に万全を期す必要があ
り、東京電力株式会社福島原子力発電所事故(以下「東電福島原発事故」という。)の経験等を踏まえ、原子力損害と認められる損害については、すべて填補されることにより被害者が適切に賠償を受けられる(以下「適切な賠償」という。)ための制度設計の検討が必要である。」
ここで言っていることは,被害者の賠償請求権に限度を設けることはしないということです。よって,例えば,賠償請求権の総額が10兆円であったとすると,その額について新原賠法が制限を加える事はしないということです。
 ②となると,次に問題になるのは,現行法で無限責任の事業者責任はどうなるかです。これについて,有限責任と無限責任の2つの案を出しています。
 「①原子力事業者の責任制限について
原子力事業者の責任の範囲について、現行の原賠法では、民事責任の一般原則である無限責任としている。このことについて、今後の原子力事業者の担い手の確保が重要であり、賠償に係る責任限度額を設けることは、原子力事業のリスク評価がある程度可能となり、原子力事業者にとっての予見可能性確保の観点から意義があるため、原子力事業者の賠償責任を制限し、有限責任 注)とすべきとの意見がある。……この場合の有限責任とは、原子力事業者が有する被害者への賠償責任を一定の額で制限し、それを超えるものについては免責とするものである。」
もう一つは,無限責任です。
 「現行の原賠法では、民法の一般原則と同様に原子力事業者を無限責任とし、責任保険契約、政府補償契約等による損害賠償措置を義務付け、加えて、原賠法第 16 条に基づく国の措置により賠償資力を確保することで、被害者への適切な賠償が行われる制度としている。」
以上のように,有限責任,無限責任の2つがあるというのです。

 ③論点の整理案は,有限責任を本命としているようです。そのことは,書きぶりから読み取れます。逆に言えば,このことは,明確に書かれているわけではありませんが,注意深く見るとそのことがわかります。 
 第1の理由は,原子力事業者の責任についての記述順序です。まず有限責任論を書き,次に,無限責任論をかいていることです。現行法が無限責任である以上,何もなければ,現行法の無限責任を書き,次に改正提案となる有限責任を書く事になるはずですが,そうなっていません。まず,有限責任を書いているのです。
 第2の理由は,分量です。有限責任論に関する記述の量は,無限責任論についての記述よりも2,3割多いようです。
 
 そもそも,この専門部会の設立前に,下村博文文部科学大臣記者会見録(平成27年1月30日)は,次のように述べていました。原賠法見直しの趣旨が電力会社の賠償責任に上限を設けることであり,専門部会のそのような答申を望ましいと考えていることが伺える発言です。http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1354511.htm

 「…「記者)先般、原子力委員会が、有識者による作業部会を作って、電力会社の賠償額等に上限を設けるという原子力損害賠償法の改正に向けた議論を始めるという報道がありましたけれども、そのことについて大臣はどう受け止められているか、御所見を……。
 大臣)
 原子力損害賠償制度の見直しにつきましては、内閣官房副長官が主宰し、関係副大臣などからなる「原子力損害賠償制度の見直しに関する副大臣等会議」におきまして検討が進められてまいりました。今月22日に開催された副大臣等会議では、一つは、原子力事業者や国の責任の在り方。二つ目に、損害賠償措置額の在り方。三つ目に、免責事由、異常に巨大な天災地変等の在り方でありますが、この三つの論点については、専門的かつ総合的な観点から検討を行うことが必要であることから、内閣府原子力委員会に今後の検討を要請したところであります。具体的な論点や進め方なども含めて、これから原子力委員会において検討が行われるということでありまして、文部科学省としても必要な支援を行ってまいりたいと思います。最初から上限を設けるうんぬんということが確定した議論ということではないということであります。」。

 以上のように,「最初から」は「確定していない」と述べています。明らかにその方向が望ましいとの発言でした。
posted by 原賠 at 15:45Comment(0)日記